サカナクション新アルバム「DocumentaLy」を聴いた感想


今週、サカナクションの新アルバム「DocumentaLy」を買いました!
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A020936.html


買ったのは初回限定盤A。Bonus Truckとハンドブック(アルバム制作過程でのメールやり取りなどが収録)、それから制作に8か月がかけられたアルバムリード曲「エンドレス」と、逆に1日という短期間で撮り終えたエンディング曲「ドキュメント」のレコーディング風景をライブ風にアレンジした映像の2点が収録されたDVD「DocumentaLy DocumentaRy」が入っていました。

このアルバムを通じてサカナクションが伝えたかったのは、音楽が作られる過程で起こる、人と人とのやり取り、精神的(mentaL)なぶつかり合い、人間臭さ、とのことです。


アルバム名は、通常のDocumentaryではなく、DocumentaLy。RのスペルをLに変えることで、mentalつまり精神、心が浮かび上がってくる。ここから、日々の生活(ドキュメント)には、人と人との精神的なやり取りがあり、その中で生きているということを再確認すべきということがあります。
また、Rにはリアルの意味もある。そして、RとLで右左。ボーカルの山口さんは、確か、どちらかの耳が聞こえない状態にあると語っていたと思いますが、そういうところからも今回のタイトルの着想に至った可能性があります。


特典DVDでは、エンドレスという曲の歌詞がうまく決まらず、そこで葛藤するボーカルやメンバーの姿。そして、このアルバム制作を通じて成長していくメンバーの姿が収められています。まさにドキュメンタリー映像です。
先行トレーラー;http://www.youtube.com/watch?v=ov_kPDCnKd8

さらに、これまで僕のつぶやき欄で何度か紹介している通り、ボーカル山口さんによる、本人の音楽や仕事に対する考えがつづられた記事もアップされています。こちらもあわせて読むと、彼らの考え方や、作品の裏側を知ることができると思います。http://natalie.mu/music/pp/sakanaction03



さて、今日は、このアルバム曲すべてについて各曲、そしてそれらのつながりについてレビューしてみたいと思います。



まず、曲目リストはこちら↓
1. RL
2. アイデンティティ
3. モノクロトウキョー
4. ルーキー
5. アンタレスと針
6. 仮面の街
7. 流線
8. エンドレス
9. DocumentaRy
10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
11. years
12. ドキュメント
13. ホーリーダンス Like a live Mix



1. RL
この曲では、時報に合わせて、D・O・C・U・M・E・N・T・A・R(L)・Yというスペルを、次々に口ずさんでいきます。要はインストです。ここで、本作品でスペルを変えているLというところで、右と左のスピーカーからそれぞれ、RとLと、異なるスペルを発しています。聴いてみてください。


2. アイデンティティ
RLに続いてシームレスに始まるこの曲。フェスで盛り上がれる曲ということで作られたそうですが、実際、盛り上げれます。http://www.youtube.com/watch?v=1awua0YrSRs


3. モノクロトウキョー
彼らはもともと札幌から上京してきて今に至るわけですが、東京という憧れであった場所の実情について皮肉気に冷めた感じに歌っています。貧乏と金持ちの共存。それが東京。曲調も若干東洋的なアレンジで歌謡曲的。


4. ルーキー
シングル版よりもキーボードの音質を若干下げて少しこもらせて重くしている。だからか、よりアリーナ的なアレンジになっている感じ。僕は好きです。歌詞の意味はいまだに分かりませんが、ロックとダンスミュージックと文学の融合が見事に実現されている感じ。メロディが懐かしいのに、伴奏は踊っているという。個人的には、彼らの作品で最も好きな曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=ZdWX0IDhbCU
(※注意;本MUSIC VIDEOは、当社基準のレベル調整を行いCDの音質よりも劣化した音源をUPしています。)


5. アンタレスと針
この曲は、さそり座(スコーピオ)を構成する一等星アンタレスと、さそり座の中では2番目の輝きを持つにも関わらず、普段は見えづらいシャウラについて歌った歌。能ある鷹は爪隠すではないですが、2番目のかがやきだが、潜在的な力を持っている。そういうのに憧れる。という歌のようです。

※参考Wiki
さそり座
アンタレス
シャウラ


6. 仮面の街
初めて聞いたとき、かなり攻めた曲だと思いました。特に多くの日本人が言われがちな悪い面を歌った歌だと思います。表では笑みを浮かべ、裏でしたたか。今年起こった震災でも、表面的に偽善的な姿を見せるものがある一方で、被災者を裏で差別するような出来事が一部報道されましたが、そういうニュースから発案されたのかもしれません。非常に痛々しい曲。曲調も攻めている。特にサビのボーカルはコーラスだけど、ベースが踊っているという変則的な編成。


ここまでざっと振り返ると、なんだこのアルバムは、ただ世の中を皮肉っているだけではないか。結局、サカナクションは世の中の大衆に対して攻撃的で、左的な、今のJロックの一部にありがちなバンドではないか。と思うかもしれない。でも、ここからの構成がそうでないことを感じさせてくれる。レビューを続けます。


7. 流線
この曲は、非常にスローテンポでアコースティックな曲調。歌詞も、ほとんどなく、インストに近い構成。でも、逆に、何か強いものを感じるし、時代を感じる。彼らのこれまでの曲にも、同じ手の曲がありましたが、実際、彼らはこういった歌詞に頼らないインスト的な曲も目指していると語っています。僕は、結構この曲が好きです。特に、途中のだんだん強くなるドラムがたまらない。


8. エンドレス
このアルバムのリード曲。歌詞の構成に難渋し、70以上のパターンの中から厳選されて本作品ができたらしいです。他の曲もそうですが、この曲の歌詞をみると、短歌のように、似た表現を繰り返し、だけど、少しずつ変えています。この手法は、我々の脳にフレーズを刷り込ませ、少ない言葉から逆に多様な発想、情景を浮かばせるのではないかと思います。
この曲が歌っているのは、時代について様々に批評が行われるが、それをまた違う誰かが批評し、それをまた違う誰かが批評する。という無限のループが行われている。それを誰が初めて、誰が終わらせるのか?そして、最後にそれは結局、自分だったんだ。という内容です。
これは、実際、Youtubeを見て発案したそうです。Youtubeでは、映像に対してコメントする仕組みをとっていますが、実際は、映像でなくコメント内容に対して批評しあって、またそれに対して批評している。ここから発案されたそうです。
これは、YoutubeでなくてもTwitterや2ちゃんでもあることだし、世論でもそう。元情報でなく二次三次情報を取り上げて反応しあっている。そのことについて歌った歌だと思います。まだ、自分も彼らの考えをきちんと理解しきっていないので、これくらいにしますが、かなり奥の深い作品であることは間違いありません。
曲調も凝っていて、1番はキーボードが効果的なアコースティックな構成、2番はテクノ的。だけどなぜか温かみのある人間臭い構成、そのあと、雑音からなる間奏にはいり、大サビにうつる。この大サビのキーボードがすごい。どこまでトーンを上げていくんだと思ったら、ノイズのように連続されるというもの。キーボード岡崎さんの成長が著しいっていう話のようですが、確かに、この構成にすごさを感じました。
http://www.youtube.com/watch?v=HZZk2Mq_yjA&ob=av2e


9. DocumentaRy
インスト曲。構成は単純ですが、結構シリアスな曲調に仕上がっています。途中から強くなる打ち込みがまた魅力的。そして、この曲でこのアルバムが収束に向かうかのような印象を受けると思います。


10. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
と思ったら、この曲。彼らとしてはめずらしい、エンターテイメント性を持った曲。ミュージックビデオも結構ちゃらけている。この曲はシングル曲で、比較的世に出たので、ミーハーな印象もあった。
しかし、このアルバムに入ることで、非常に重要なアクセントをアルバムに持たせていると思います。全曲がシリアスで収束するような感じの曲だったところに、このエンターテイメントな曲が来ることで、また一波乱あるかのような展開。シリアスなところに行き切らずに、いったん大衆に戻ることで、感じるほっとした安堵感。僕は、この曲をこの位置に持ってくることの意義を感じてきました。
http://www.youtube.com/watch?v=tZbXHt3xPr8&ob=av2e


11. years
シングルと同じく、前曲バッハ〜につづく作品。前曲が日常をうたった曲だったのに対し、この曲は、時代を歌っています。そして、本アルバムの前の方の曲々のいくつかが世の中を悲観的にとらえているのに対し、この曲からは何か希望というか、人間が持つべき普遍的で揺るがないものを感じます。どんな困難にぶち当たっても持つべき感覚というか。
このアルバムが、これまで以上に人間臭さを内包していると語られる意味がなんとなく分かります。


12. ドキュメント
アルバムのラストを飾る作品。この曲で、彼らはやはりロックバンドだということを知らせてくれます。そして、冒頭の「今までの僕の話は全部ウソさ。この先も全部ウソさ。」というフレーズ。これまでの曲で歌ってきたことは何だったのか?
この曲は、先述の通り、ほぼ一日で制作された曲だそうで、このフレーズも自然に出てきたものだそうです。
そのあとで、「このままでいいのかな?」と歌っている。内なる感情と外にアウトプットされる表現は必ずしも一貫するものでないし、流動的なもの。それが自然と出てきたというところが人間臭く、逆にリアルで本質的なものであると感じます。
そして、最後の「愛の歌うたってもいいかなと思い始めている」というくだり。これは彼らの欲求であり、具体的な感情である。そういうことを他の記事などで知っている僕らリスナーからすると、本当にリアルな歌だなぁと思います。
初見の人で、ダンスミュージック的な曲になじみがない人も、この曲を聴けば、アコースティックなロックなので、安心して聴けると思います。こういう曲を短い時間で作り上げる彼らの集中力と才能に、彼らのすごさを再確認しました。


おまけ;Bonus Truck
13. ホーリーダンス
これは、シングル盤アイデンティティのc/wとして収録されていたものです。コアなファン受けしている曲。サビまでが非常に冗長でけだるく、歌詞もそんなにたくさんのことを語っていないのですが、なんといってもサビの中毒性の高さ。ホーリーダンス♪というフレーズとそれに絡むシャワーのように落ち込むキーボード、打ち込みがたまらなすぎる。
今回のトラックは、オリジナルのリミックスです。正直、初めは違いが分かりませんでした。
しかし、よく聴きこむと、オリジナルよりも各パートの音が鮮明に聞こえる。特に、打ち込みとドラム。ボーカルのエコーも、生音とくっきり分かれて聞こえる。おそらく、最後のミックスの過程の一部を省いたかリアレンジしたかだと思いますが、ダンスミュージックなのに、人間くさいというか手作り感のようなものがより感じられる。




以上、長くなりましたが、以上のレビューを参考に、または無視して、感性のままに聴いてみてください。また実際に作品に触れ、歌詞カードを見ながら、そしてYoutube等で彼らのミュージックビデオを見ながら、と様々な角度から聴くとより、この作品を堪能できると思います。 そして、きっと、何人かの人が本作品を気に入ってくれると信じています。



サカナクションHP;http://sakanaction.jp/main.html