カルシウム活性化塩素イオンチャネル(CaCC)の候補タンパク

TMEM16A confers receptor-activated calcium-dependent chloride conductance.
Yang YD, Cho H, Koo JY, Tak MH, Cho Y, Shim WS, Park SP, Lee J, Lee B, Kim BM, Raouf R, Shin YK, Oh U.
Nature. 2008 Oct 30;455(7217):1210-5. Epub 2008 Aug 24.
http://www.nature.com/nature/journal/v455/n7217/full/nature07313.html


 来週、所属研究室で紹介しようと思っている論文です。まだこれから詰めないといけないのですが、整理の意味で先にこのブログにて紹介したいと思います。

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 本論文は、電気生理学的研究から提唱されていたCaCCというイオンチャネルが、具体的にどのような構造をしたタンパクであるか突き止めた、という論文だ。 CaCCとは、Ca2+ activated chloride channel (current、conductance)のことで、文字通り、Caイオンによって活性化されるClチャネルである。CaCCという名称は、その電気的特性より定義された。

 この論文が出た当時にすでに、このチャネルの実体(どのような分子構造を持つチャネルなのか?)について、いくつか候補は提唱されていた。しかし、CaCCの特性を再現するには不十分なものばかりだった。本論文は、この候補にふさわしいタンパクを見つけた!というものだ。



1.「Anoctamin1はCaCCの候補になりうるか?」 その検討
 
 本論文の大まかな流れは、CaCC候補タンパクの検索、これがCaCCの電気生理学的特性を持つことの実証の2つ。

 著者らは、まず、データベースから、(2つの条件)設定によって、CaCCの候補となりうるタンパクを検索した。その結果、このTMEM16Aがヒットした。そして、その他検討の結果、これが8回膜貫通し、陰イオンを通す。ということがわかった。(この具体的な、検証方法について不勉強なので、知識を補強するつもり・・・)

 そして、CaCCが通すのは陰イオンであることから、このTMEM16AをAnoctamin1と名付けた。(陰イオン(Anion)を通す、8(Oct-)回貫通する構造のチャネル、ということからの命名のようだ。)

 次に、このチャネルがCaCCの電気的特性を持ちうるか調べた。方法として、Anoctamin1をHEK細胞に強制発現させ、CaCCの特徴を再現できるかWhole-cellパッチクランプ法により調べた。
 さらにCaCCの特徴としてすでに報告されていたGPCRによる修飾や数種の一価陰イオン透過性の関係について、さらに陰イオンブロッカーによる薬理検討も行った。
 また、Anoctamin1の発現部位の同定を行い、肺、脾臓、腎臓、網膜、後根神経節(DRG)、顎下腺の各上皮細胞に発現していることを確認した。

 以上から、過去の報告と一致するものであり、Anoctamin1がCaCCの候補になるという根拠が提示できた。


2.「Anoctamin1はどのような生理学的機能を持ちうるか?」 その検討

 さらに、筆者らは、生理学的機能の一例として、CaCCについてたくさん研究のされている唾液腺細胞機能への寄与を調べた。
 
 先行研究にてCaCCの唾液腺における機能が多く調べられている理由は、その臨床的重要性からだ。CaCCなどのClイオンチャネルやNaイオンチャネルが支障を来すと様々な問題が生じる。その一つに分泌障害があり、粘性物質の増加が起こる。特に、気管においてこれが起こると、呼吸障害など生死に関わる問題となる。(筆者らは、白人で特異的な遺伝病(嚢胞性線維症:Cystic Fibrosis)の基礎知見としての意義を強調している)このようにCaCCの分泌細胞への寄与を調べる事は臨床的にも重要なことである。

 そこで、筆者らは、Anoctamin1 mRNAを破壊するためにこのsiRNAを、マウスの静脈に投与し、その4日後に、コントロールと唾液分泌量を比較した。さらに、このマウスの顎下腺細胞の電流変化も測定した。その結果、siRNA投与マウスにおいて、唾液量、電流量ともに抑制された。以上より、Anoctamin1が生体における唾液分泌機能に関与することが示された。

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 感覚神経の細胞体(ニューロン)が集まるDRGにも、発現が見られたということで、このチャネルの末梢痛への関与が気になるところです。