軽い刺激に応答するイオンチャネルNOMPCの報告

Drosophila NOMPC is a mechanotransduction channel subunit for gentle-touch sensation

Yan Z, et al. (Jan YN.グループ)
Nature. 2013 Jan 10;493(7431):221-5.
http://www.nature.com/nature/journal/v493/n7431/abs/nature11685.html?lang=en

 かねてより機械刺激に応答する候補と考えられてきたイオンチャネル、NOMPCが、軽い刺激に直接応答するイオンチャネルであることを実証しようとした報告です。

 今回、軽い刺激に応答する神経の同定を行い、この神経特異的に発現するイオンチャネルを同定し、さらに通常は発現しない別の神経に遺伝子操作で発現させ軽い刺激に対する反応性を獲得するか調べています。その結果、ショウジョウバエ幼虫の体壁に分布する、da神経(Dendric arborization:複雑な樹状突起を形成する)のクラス3神経にNOMPCが発現しており、これが軽い刺激に応答していることが示されていました。
 さらに、このチャネルの電気的特性を詳しく調べるため、NOMPCを強制発現させた細胞を用い、細胞外からの機械刺激や細胞内圧減少といった機械的な刺激に応じて流れる電流を測定し、機械的刺激に応答するイオンチャネルであることが示されています。
 最後に、このイオンチャネルのチャネル孔と考えられる領域のうち、酸性アミノ酸の部位を非極性のアミノ酸に点変異して、正常時の電気的な特性を調べたところ、内向き電流が流れにくくなりました。これは機械刺激を与えても同様の特性を示しました。

 さて、同じようにショウジョウバエを用いた昨年の報告で、da神経のクラス4が、強い刺激(侵害刺激)に応答する(Piezoチャネルが働いている)と報告されていました。今回は、クラス3で弱い刺激に応答することが確認されたため、クラス3とクラス4で、弱い刺激と強い刺激に対し異なるメカニズムの存在が提唱されていました。ただ、これらの刺激応答が本当にきれいに分けられるものなのか、そもそもこの刺激の強さの境目があるのかちょっと疑問です。

 また、機械刺激に応答するイオンチャネルは、チャネル自体が直接刺激に反応してチャネルを開くのか、別の因子が応答することで間接的に開くのか、今のところはっきり示されたものはないみたいです。今回の報告の次の手としては、この点をさらにはっきりさせるため、別の因子を排除した人工的な膜にて、同じような確認が必要のようです。もし、そこまで確認できたらおもしろいですね。(ただ、今回のこの報告だけでも大変なお仕事だったと想像します。。)


 余談ですが、今回の論文は、自分の理解が貧弱だった、UAS-GAL4システムや、個人的に最近よく見るGCaMPタンパクを用いたカルシウム測定などの部分が勉強できて、おもしろかったです。普段あまり読みなれていないハエの実験についても知識が広がった気がします。また、この論文は、論理がすっきりしていて(逆に冒頭はあっさりしすぎて笑)、読んでて非常に勉強になりました。

※この2つの技術について、昨日こんな紹介動画を見つけたので、最後に紹介しておきます。
http://www.youtube.com/watch?v=3DWZGrQoCl8&feature=youtu.be