無事Publishされました/勉強会を始めてみます

かなり久々の更新です。。

筆頭論文がPublishされました。
http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone.0065751

今年初めに投稿し、追加実験を要求され、その実験をし再投稿。これで無事Acceptされましたが、それから1か月半たってようやくPublishされました。実は、掲載を検討し直されていたのではないかと不安になりましたが、無事通ってほっとしています。これまで指導していただいた先生方、実験場所・資料を提供していただいた先生方、メンターになってくださった先生方・先輩には、本当に感謝したいと思います。

さて、4月から所属や立場ががらりと変わりましたが、研究活動は進んでいません。。この内容に関連する報告をなんとか今年度内にもう一本出せるよう頑張りたいと思います!


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また、今日から勤務先で勉強会を始めることにしました。参加を希望している学生はまだ2名ですが、非常に楽しみです。

始めたきっかけは、論文を題材に自発的に勉強してもらいたいのと、自分自身も他の人と勉強したいからです。特に、文献を読み解く力は、誰かに教えてもらうよりも、たくさん読む中で自らの努力で培われるものだと思うので、一緒に高められればいいと思っています!

と、がんばろうと思っていますが、はじめだけ張り切って尻つぼみになって自然消滅、、となるのでなく、長続きするように、すこしずつ進めていこうと思います。(終)

軽い刺激に応答するイオンチャネルNOMPCの報告

Drosophila NOMPC is a mechanotransduction channel subunit for gentle-touch sensation

Yan Z, et al. (Jan YN.グループ)
Nature. 2013 Jan 10;493(7431):221-5.
http://www.nature.com/nature/journal/v493/n7431/abs/nature11685.html?lang=en

 かねてより機械刺激に応答する候補と考えられてきたイオンチャネル、NOMPCが、軽い刺激に直接応答するイオンチャネルであることを実証しようとした報告です。

 今回、軽い刺激に応答する神経の同定を行い、この神経特異的に発現するイオンチャネルを同定し、さらに通常は発現しない別の神経に遺伝子操作で発現させ軽い刺激に対する反応性を獲得するか調べています。その結果、ショウジョウバエ幼虫の体壁に分布する、da神経(Dendric arborization:複雑な樹状突起を形成する)のクラス3神経にNOMPCが発現しており、これが軽い刺激に応答していることが示されていました。
 さらに、このチャネルの電気的特性を詳しく調べるため、NOMPCを強制発現させた細胞を用い、細胞外からの機械刺激や細胞内圧減少といった機械的な刺激に応じて流れる電流を測定し、機械的刺激に応答するイオンチャネルであることが示されています。
 最後に、このイオンチャネルのチャネル孔と考えられる領域のうち、酸性アミノ酸の部位を非極性のアミノ酸に点変異して、正常時の電気的な特性を調べたところ、内向き電流が流れにくくなりました。これは機械刺激を与えても同様の特性を示しました。

 さて、同じようにショウジョウバエを用いた昨年の報告で、da神経のクラス4が、強い刺激(侵害刺激)に応答する(Piezoチャネルが働いている)と報告されていました。今回は、クラス3で弱い刺激に応答することが確認されたため、クラス3とクラス4で、弱い刺激と強い刺激に対し異なるメカニズムの存在が提唱されていました。ただ、これらの刺激応答が本当にきれいに分けられるものなのか、そもそもこの刺激の強さの境目があるのかちょっと疑問です。

 また、機械刺激に応答するイオンチャネルは、チャネル自体が直接刺激に反応してチャネルを開くのか、別の因子が応答することで間接的に開くのか、今のところはっきり示されたものはないみたいです。今回の報告の次の手としては、この点をさらにはっきりさせるため、別の因子を排除した人工的な膜にて、同じような確認が必要のようです。もし、そこまで確認できたらおもしろいですね。(ただ、今回のこの報告だけでも大変なお仕事だったと想像します。。)


 余談ですが、今回の論文は、自分の理解が貧弱だった、UAS-GAL4システムや、個人的に最近よく見るGCaMPタンパクを用いたカルシウム測定などの部分が勉強できて、おもしろかったです。普段あまり読みなれていないハエの実験についても知識が広がった気がします。また、この論文は、論理がすっきりしていて(逆に冒頭はあっさりしすぎて笑)、読んでて非常に勉強になりました。

※この2つの技術について、昨日こんな紹介動画を見つけたので、最後に紹介しておきます。
http://www.youtube.com/watch?v=3DWZGrQoCl8&feature=youtu.be

ドキュメンタリー映画「うたごころ」を観てきました


(ホームページより)

本日、ドキュメンタリー映画「うたごころ」の上映会に参加してきました。詳しくは、こちらをご覧ください。
http://utagokoro.info/index.html


感想は、・・・。
ずばり、ぜひ、足を運んで直接観てください!としか言えません。


要は、製作者側の作為的な編集のない、生の東北の現状がそこにはありました。出演者を単なる悲劇の見世物に決してしない、そして決して他人事ではないことを訴える強い決意。


僕みたいに東北ボランティア合宿の「クリエイティブの可能性」に参加された方々には分かっていただけると思いますが、現地に直接行って肌で感じて自分自身で答えを見つけて!っていうあの感覚に似た感じです。


各々観る者で感想は変わると思うし、これだけで完結するものではない。そんな内容でした。


そして、なぜイオンさんとのタイアップなのか?この点についても腑に落ちました。


上映後は、榛葉監督自らの解説があり、その後、出口にてサイン、握手、そして感想を聴いてくださいました。
この映画は監督の自主制作、収益全額寄付ですが、本当に恐縮します。


今後開催予定の土地の方々はぜひ観てください!できれば誰かと一緒に!

抑制性介在ニューロンのTRPV1の話

TRPV1 in GABAergic Interneurons Mediates Neuropathic Mechanical Allodynia and Disinhibition of the Nociceptive Circuitry in the Spinal Cord
Kim YH, Back SK, Davies AJ, Jeong H, Jo HJ, Chung G, Na HS, Bae YC, Kim SJ, Kim JS, Jung SJ, Oh SB.
Neuron. 2012 May 24;74(4):640-7.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0896627312003261

久々のブログ更新です。最近出された報告を紹介します。

                                                                              • -

この論文の要旨は、脊髄後角の膠様質の抑制性介在ニューロンに発現するTRPV1の活性化によって、脊髄視床ニューロンへの抑制が抑制される(脱抑制)というもの。

TRPV1は一過性電位イオンチャネルの一つで、カルシウムやカリウムイオンなどの陽イオンを細胞内に通します。唐辛子や熱などで活性化されます。(激辛ラーメンを食べると口の中がひりひり痛くなると思いますが、あれ。)

このTRPV1が、脊髄にあるGABA(抑制性に働く物質)作動性の介在ニューロンに発現していて、GABAによる抑制性電流をTRPV1が抑制することによって、神経因性疼痛が促進されることを示した報告です。
この介在ニューロンは、一次ニューロンと二次ニューロン(脊髄視床ニューロン)の間を介在し、二次ニューロンへの侵害伝達の調整を図っています。
よく知られているのは、痛くなったときにさすると痛みがやわらぐというもの。これにこの介在ニューロンが関わると説明されています(ゲートコントロールセオリー)


今回の図は全部で4つ。
1.脊髄ニューロンに発現するTRPV1が機械アロディニアに関与している
2.TRPV1が、脊髄後角の膠様質に発現する抑制性ニューロンに発現している
3.TRPV1が抑制性ニューロンの電流を弱め、その結果上位の脊髄視床路への抑制入力を弱める
4.中枢性のTRPV1が慢性疼痛処置による機械アロディニアに関与する


1.で明らかにされたこと;
カプサイシンの髄腔内投与による機械アロディニア様行動は、TRPV1阻害薬により抑制された。
・RTX(脳血管関門を通過できないTRPV1の強力アゴニスト)を投与により、脊髄後根節(DRG)ニューロンにおいてTRPV1発現レベルが90%以上減った。
・RTX投与マウスに対し、カプサイシンを投与したところ、非投与と同様に機械アロディニアが生じた。
・脊髄のTRPV1含有小胞を染色し、電子顕微鏡で調べたところ、脊髄でもシナプスが確認された。

以上より、TRPV1は、末梢神経のみならず、脊髄にも発現し、これが機械アロディニアに関与していることがわかった。


2.で明らかにされたこと;
・脊髄後角の膠様質のGAD65(GABA合成酵素)発現ニューロン(つまり抑制性ニューロン)にて、TRPV1の発現が多く見られた。
・GAD陽性ニューロンカプサイシンを投与すると、電流が流れた。TRPV1アンタゴニストによって電流は消失した。
・この電流ー電位曲線(IVカーブ)は外向き整流性であった。

以上より、多くの抑制性ニューロンにTRPV1が発現することが示された。



3.で明らかにされたこと(前半) 抑制性介在ニューロンに対する実験;
・一次ニューロンの電気刺激により生じる、Postsynaptic側のGAD陽性ニューロンのEPSCの振幅が、カプサイシン投与により、長期(30分間以上)にわたり低下した。TRPV1アンタゴニスト、ノックアウトマウスでは低下しなかった。
・同様の実験でカルシウムキレート剤投与で低下が抑制された。
・しかし、NMDA受容体ブロッカー、代謝グルタミン酸受容体ブロッカーでは抑制されなかった。
・一次ニューロンの二回連続刺激による連続EPSC(Twin pulse)は、カプサイシン投与により影響を受けなった。→ 一次ニューロンに発現するTRPV1はこの機構に寄与しない。
・AMPA投与により発生する電流の振幅が、カプサイシン投与により低下した。
・膜に発現するAMPA受容体サブタイプタンパクの発現レベルが、カプサイシン投与により低下した。(→TRPV1活性により、AMPA受容体が膜から細胞質へInternarizeした)

以上より、抑制性介在ニューロンに発現するTRPV1は、このニューロンの興奮性を弱めることがわかりました。(つまり、次の二次ニューロン(脊髄視床ニューロン)に対する抑制効果を弱める。)

3.で明らかにされたこと(後半) 脊髄視床ニューロンに対する実験;
・逆行性色素の視床投与で標識した脊髄視床ニューロンに発現するTRPV1mRNAを、Single cell RT-PCRで調べたところ、全く発現が認められなかった。
・一次ニューロン電気刺激で生じる、脊髄視床ニューロンのIPSCの振幅が、カプサイシン投与により、減弱した。

以上より、筆者らは下図の仮説を提唱しています。

(本論文Fig3より引用)

最後の図4では、慢性の神経因性疼痛処置であるCCI(神経絞扼処置)を行い慢性的な機械アロディニアを形成させ、これにTRPV1が関与するか調べています。

4.で明らかにされたこと;
CCIによる機械アロディニアは、TRPV1ノックアウトマウスでは低レベルであった。
・阻害薬の濃度関連を調べたところ、濃度依存的に効果があった。


以上をまとめると、上の図で示される機構が神経因性疼痛で生じており、健常者にとって痛くないような刺激でも、痛みを感じてしまうと考えられます。

(この中枢のTRPV1を活性化する内因性物質として、アラキドン酸代謝物の12-HEPESや一部のGタンパク型共役約型受容体(グルタミン酸受容体など)を挙げています。)


今回、おもしろかったのは、脊髄視床ニューロンにTRPV1が発現していなかったこと。
TRPV1はあまり中枢での機能について明らかになっていないので、今後、この研究がすすんで、慢性痛の治療創薬が進むといいですね。

(終)

洋楽オススメの3バンド!

最近、自分好みのバンドに出会うことができたので、紹介させていただきます。もし、気に入ったという方は、ぜひ彼らのホームページを訪れてみてください!
また、彼らのさらなる情報をお持ちの方は教えていただけると、こちらとしても非常にありがたいです。



1.My tiger my timing 
http://www.mytigermytiming.com/music/
ホームページ; http://www.mytigermytiming.com/

英ロンドン出身の5人組バンド。ダンスミュージックを取り入れたモダンな曲調が印象的です。デビューアルバムが5月に発売されるということで、個人的には最も注目しているバンドです。






2.Tennis
http://www.guardian.co.uk/music/musicblog/2011/may/17/tennis-cape-dory
ホームページ; http://www.fatpossum.com/artists/tennis


米国コロラド州出身の夫婦バンド(。懐かしい曲調ですが、意外にも最近活動を始めたバンドのようです。アルバムを2枚も出しているようです。穏やかな曲調なのにギターのひずみが入っているので、なかなかクセになりそう。




3.Cloud control
ホームページ; http://www.cloudcontrolband.com/

豪州出身の4人組バンド。ネット上で偶然教えてもらって知りました。日本でも音楽雑誌で少し紹介されていたので、ご存知の方がいるかもしれません。下の曲は王道的で聞きなれてる感がありますが、ほかの曲は民族的な曲調のものが多く、日常に疲れた時聴くと新鮮な気持ちになれるかもしれません。




以上、3バンドを紹介しました。日本ではあまり知られていませんが、もし気に入った方がおりましたら、ぜひぜひ聴いてみてください(終)

侵害受容器だけを麻酔するワザ

一昨日、所属研究室の論文紹介で扱った内容についてまとめておきます。

今回紹介したのは、文献③。①と③は同じグループ。

Nature. 2007 Oct 4;449(7162):607-10.
J Clin Invest. 2008 Feb;118(2):763-76.
Anesthesiology. 2009 Jul;111(1):127-37. ←これを紹介


Lidocaine(=キシロカイン)は、60年以上も昔から使われ続けている局所麻酔薬。脂溶性なので、細胞膜をすり抜けて細胞内に侵入し、電位依存型Na+チャネルのポアの細胞内領域に結合して、Na+流入を阻害する。これにより、活動電位が起こりにくくなり、感覚が麻痺する。しかし、Na+チャネルはさまざまな感覚に発現しているため、感覚を皆麻痺させてしまう。このような問題があったので、侵害受容器(痛みを伝える神経)だけに発現するNa+チャネルを探して、それの阻害薬を作ろうという試みが製薬会社を中心に凌ぎを削っていた、らしい。


しかし、文献①の筆者らは逆転の発想を考えました。そもそも侵害受容器にしか発現していない受容体をゲートとして利用して、そこしか通れない麻酔薬を使えばよいと考え、侵害受容器に特異的に発現していて、ポアサイズが比較的広いイオンチャネルということで、TRPV1に白羽の矢が立ちました。
TRPV1はいろんな陽イオンを通します(非選択的陽イオンチャネル)。そこで、正電荷を帯びた麻酔薬を使えばよいのでは?そこで、Lidocaineの一部分が正帯電した麻酔薬(QX-314; N-ethyl-Lidocaine)が候補に挙がりました。整理すると、TRPV1を開き、そこから陽イオン化した麻酔薬を細胞内に入れる。実際、QX-314の細胞内投与は高い阻害効果をもたらすことが確認されていたので、中に入ればしめたもの。

↑LidocaineとQX-314の違い(構造式); 赤線より右部だけが違う



この理屈から、TRPV1作動薬であるCapsaicinとQX-314を一緒に投与すれば、侵害受容器だけを特異的に麻痺させることができると考え、実際に確認しました。これが文献①です。
(この論文は非常にシンプルですが、その発想が斬新だったからかNatureに載り、しかも表紙を飾っていました)


↑QX-314がNa+チャネルを阻害するメカニズム(文献①より引用)



さて、文献①で、このダブル投与により、熱あるいは機械痛覚行動が阻害され、一方、運動機能は阻害されませんでした。つまり、侵害受容器のみを麻酔できた。ただ、Capsaicinの影響からか、投与のごく直後に強烈な痛みが起こってしまう。TRPV1は陽イオンであるNa+も通すので。さて、困った。

そんな時、翌年の2008年に、面白い報告が出ました。先に述べた局所麻酔薬の重鎮「Lidocaine」が、実はTRPV1の作動薬として働くというのです。(これが文献②です。)

そこで、CapsaicinのかわりにLidocaineをQX-314と混ぜて投与すれば、痛みを起こすことなく、侵害受容器だけの麻酔効果が遂行できるのではないか!これなら臨床現場でも使ってもらえる!このことを確かめたのが文献③です。
(あっさり言うと、文献③は文献①の方法そのままに薬物だけ変えて検討しなおした内容です)


さて、この文献③は、主に行動実験で構成されています。これについてはラットに対するものとKOマウスに対するものを行いました。前者は、全部で3つの疼痛テストを行い、それぞれに対して、QX-314単独、Lidocaine単独、この複合投与の麻酔効果を比較した。(3つのテストとは、足底投与しVFテストで調べるもの、皮内投与しそこにPinprickテストを行いその反応をテストするもの、神経近傍に直接投与し疼痛行動・運動機能を評価比較するもの。)さらに、QX-314+LidocaineにCapsaicinも加えた検討も行っています。
後者のマウス実験では、TRPV1のKOマウスに対して足底投与をし、QX-314+Lidocaineの麻酔効果を調べています。


結果は、3つの投与方法すべてにおいて、Lidocaine+QX-314は、Lidocaine単独よりも長期にわたる麻酔効果をもたらしました。Lidocaineが入っているからか運動機能も投与後しばらくはありますが、その後の痛覚のみ阻害の持続時間はかなり長いものでした。
さらに、これにCapsaicinも混ぜた3種混合投与を行うと、もっと長い時間、痛覚のみ麻酔がききました。しかも、驚くべきことに、投与直後に起こるはずの痛み行動がまったくなくなりました。
一方、KOマウスへの投与効果ですが、TRPV1がないマウスであるにもかかわらず、まったく阻害効果が消えるわけではなく、やや麻酔効果が出ました。


以上より、LidocaineはCapsaicinの代わりにTRPV1活性薬として働き、しかもそれによる痛みを起こしませんでした。この理由として、Na+チャネル阻害のEC50がTRPV1活性のEC50よりも低いことが挙げられます。つまり、Na+チャネル阻害のほうが起こりやすいということです。(※EC50=対象の50%に効果がもたらされる濃度)

Capsaicinも混ぜた3種混合投与で、超長期的に阻害効果が及び、しかも投与直後の痛みが起こらなかったことについても、LidocaineのNa+チャネル阻害薬としての効果の方が先に出るため、Capsaicinによる痛覚惹起が消えたと考えられます。(実際、Lidocaineも痛みを起こすらしいですが、おきてもほんの数秒間との報告があるそうです)


筆者は、Lidocaine+QX-314の複合投与の有用性を叫んでいましたが、実験結果を素直に解釈すれば、Capsaicinも含めた3種混合が至上だと思うんですがどうなんでしょう? Capsaicinが強烈なTRPV1作動薬であることから、たくさんの検討が行われないと危ういと考えるからか、当初の目的から飛躍するからなのかもしれませんが。

マウスの実験については、TRPV1のKOでも麻酔効果が出てしまうことから、ほかの陽イオンチャネルもQX-314を通すと考えられます。この候補として、TRPA1が挙げられていました。TRPA1はTRPV1と共発現しているという報告が結構出てますし、ポアサイズも大きいので、関与が疑われます。


その他、細かい点ですが、Pinprickテストを用いた測定にて、QX-314単独投与による弱い麻酔効果が現れました。この考察として、筆者はPinprick刺激が機械刺激として働きTRPV1が開いた(最近、TRPV1が機械感受性であるという考えが出ています)。投与の際に行った全身麻酔薬(sevoflurane)に作動効果がある。その他の内因性作動薬の存在が可能性として挙げられていました。(散々挙げた挙句、考慮に値しないほど微々たる麻酔効果だといって締めくくっていましたw)

今回、質疑応答で言われましたが、炎症や虚血などのTRPV1活性閾値の下がった病態下においては、QX-314単独でも麻酔効果が期待できるかもしれませんね。
(ただ、この場合、TRPV1を開く因子が病態という不確定因子であるため、素直にLidocaineと一緒に投与したほうが無難かもしれませんね)

あと、痛み研究ではしょうがないのかもしれませんが、神経近傍投与の実験で施行された疼痛評価は、定性的な評価でした(スコア化してるけど、中間の指標がmildly impairedとmoderately impairedって、あいまいだなぁ)。これが現状の行動実験の泣き所なのかもしれません。



長くなりましたが、以上です。今や本論文発表から3年たっているので、もう人への応用実験も行われているんでしょうか?局所麻酔が何日も続くのなら、感覚、運動機能を損なわず麻酔できることの恩恵は計り知れませんが、長くても数時間くらいなら全部の感覚が麻痺しても問題ない気がしないでもないですが、現場で実際のところどうなんでしょうか?



最後に。臨床応用の意義もそうですが、TRPV1を麻酔薬のゲートに見立てるという発想自体が非常に画期的だった文献①や、長らく局所麻酔薬の重鎮だったリドカインが、逆に痛み関連のイオンチャネル活性にも働くことをきちっと調べた文献②の方が、文献③よりもインパクトがデカくて良い論文でした。時系列的に最後の方がいいと思ったこともありますが、紹介する論文の選考を少し誤った気がします。。次回は気をつけたいと思います。(終)

カルシウム活性化塩素イオンチャネル(CaCC)の候補タンパク

TMEM16A confers receptor-activated calcium-dependent chloride conductance.
Yang YD, Cho H, Koo JY, Tak MH, Cho Y, Shim WS, Park SP, Lee J, Lee B, Kim BM, Raouf R, Shin YK, Oh U.
Nature. 2008 Oct 30;455(7217):1210-5. Epub 2008 Aug 24.
http://www.nature.com/nature/journal/v455/n7217/full/nature07313.html


 来週、所属研究室で紹介しようと思っている論文です。まだこれから詰めないといけないのですが、整理の意味で先にこのブログにて紹介したいと思います。

                                                                              • -

 本論文は、電気生理学的研究から提唱されていたCaCCというイオンチャネルが、具体的にどのような構造をしたタンパクであるか突き止めた、という論文だ。 CaCCとは、Ca2+ activated chloride channel (current、conductance)のことで、文字通り、Caイオンによって活性化されるClチャネルである。CaCCという名称は、その電気的特性より定義された。

 この論文が出た当時にすでに、このチャネルの実体(どのような分子構造を持つチャネルなのか?)について、いくつか候補は提唱されていた。しかし、CaCCの特性を再現するには不十分なものばかりだった。本論文は、この候補にふさわしいタンパクを見つけた!というものだ。



1.「Anoctamin1はCaCCの候補になりうるか?」 その検討
 
 本論文の大まかな流れは、CaCC候補タンパクの検索、これがCaCCの電気生理学的特性を持つことの実証の2つ。

 著者らは、まず、データベースから、(2つの条件)設定によって、CaCCの候補となりうるタンパクを検索した。その結果、このTMEM16Aがヒットした。そして、その他検討の結果、これが8回膜貫通し、陰イオンを通す。ということがわかった。(この具体的な、検証方法について不勉強なので、知識を補強するつもり・・・)

 そして、CaCCが通すのは陰イオンであることから、このTMEM16AをAnoctamin1と名付けた。(陰イオン(Anion)を通す、8(Oct-)回貫通する構造のチャネル、ということからの命名のようだ。)

 次に、このチャネルがCaCCの電気的特性を持ちうるか調べた。方法として、Anoctamin1をHEK細胞に強制発現させ、CaCCの特徴を再現できるかWhole-cellパッチクランプ法により調べた。
 さらにCaCCの特徴としてすでに報告されていたGPCRによる修飾や数種の一価陰イオン透過性の関係について、さらに陰イオンブロッカーによる薬理検討も行った。
 また、Anoctamin1の発現部位の同定を行い、肺、脾臓、腎臓、網膜、後根神経節(DRG)、顎下腺の各上皮細胞に発現していることを確認した。

 以上から、過去の報告と一致するものであり、Anoctamin1がCaCCの候補になるという根拠が提示できた。


2.「Anoctamin1はどのような生理学的機能を持ちうるか?」 その検討

 さらに、筆者らは、生理学的機能の一例として、CaCCについてたくさん研究のされている唾液腺細胞機能への寄与を調べた。
 
 先行研究にてCaCCの唾液腺における機能が多く調べられている理由は、その臨床的重要性からだ。CaCCなどのClイオンチャネルやNaイオンチャネルが支障を来すと様々な問題が生じる。その一つに分泌障害があり、粘性物質の増加が起こる。特に、気管においてこれが起こると、呼吸障害など生死に関わる問題となる。(筆者らは、白人で特異的な遺伝病(嚢胞性線維症:Cystic Fibrosis)の基礎知見としての意義を強調している)このようにCaCCの分泌細胞への寄与を調べる事は臨床的にも重要なことである。

 そこで、筆者らは、Anoctamin1 mRNAを破壊するためにこのsiRNAを、マウスの静脈に投与し、その4日後に、コントロールと唾液分泌量を比較した。さらに、このマウスの顎下腺細胞の電流変化も測定した。その結果、siRNA投与マウスにおいて、唾液量、電流量ともに抑制された。以上より、Anoctamin1が生体における唾液分泌機能に関与することが示された。

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 感覚神経の細胞体(ニューロン)が集まるDRGにも、発現が見られたということで、このチャネルの末梢痛への関与が気になるところです。